
不動産を売却する際、売却金額や仲介手数料ばかりを気にしてしまいがちですが、忘れてはならないのが税金です。
売却によってプラスになった場合には、条件によってはまとまった額の税金を納めることになり、その後の資金繰りに影響が出てしまうかもしれません。
そのため、事前にどんな税金がかかるのか、具体的にいくら位必要なのかなど、基礎的な知識を身につけておくことはとても大切です。
今回は、不動産を売るときに発生する税金の種類や税率、固定資産税の清算、節税のポイントなどを詳しく解説します。
不動産の売却時に発生する税金
不動産の売却時に発生する税金の中で、必ず納めなければならないのが印紙税と登録免許税です。
印紙税
不動産売買契約書を交わす際には、契約書を二通作成して売主と買主が一通ずつ持ち、それぞれに収入印紙を貼付します。
印紙税は、収入印紙を購入して契約書に貼付することで納められます。
印紙税は契約書に記載された契約金額(売却金額)によって異なり、売主と買主は自分の契約書の印紙税を負担します。
印紙税の対象は、契約金額が10万円以上のものです。
また、2014年4月1日から2020年3月31日までに作成された契約書には、軽減税率が適用されます。
たとえば、2018年1月15日に売却金額が4,000万円の売買契約書が作成された場合、印紙税は1万円となります。
一般的な不動産の場合、印紙税は1万円~3万円で収まることがほとんどです。
詳細は、国税庁HP「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」で調べることができます。
登録免許税
不動産の所有権が売主から買主へ変わる際の手続きを所有権移転登記といい、この登記にかかるのが登録免許税です。
原則では固定資産税評価額×2%ですが、こちらも軽減税率があり、2019年3月31日までは1.5%で計算します。
たとえば、2018年1月15日時点で固定資産税評価額が2,000万円だったとすると、軽減税率が適用され、登録免許税は2,000万円×1.5%で30万円となります。
ローン返済中の不動産の場合は、ローンを全額返済して抵当権を抹消する必要があります。
これを抵当権抹消登記といい、不動産1件につき登録免許税が1,000円かかります。
家と土地がある場合はそれぞれに登記が必要で、合計2000円の登録免許税が発生します。
売買契約を交わす際には、固定資産税も精算
固定資産税や都市計画税等(以後、固定資産税等)の納付義務者は、毎年1月1日に所有者として登記してある人になります。
そのため、年度の途中で所有者が変わったとしても、納付書は1月1日の所有者のもとへ届きます。
売主にとっては、すでに手放した不動産の固定資産税等を支払い続けるのは違和感がありますので、この場合は売主と買主の間で話し合い、固定資産税等の精算を行うのが一般的です。
たとえば、3月1日に不動産の引き渡しが行われた物件で、固定資産税等が12万円だった場合、12万円÷2/12で2万円が売主の負担分になります。
そして、残りの10万円は買主の負担分になるため、この10万円を売却金額に上乗せできます。
売却金額が3,000万円のときは、総支払額を3010万円にして固定資産税等の清算をします。
こうした固定資産税等の精算は、不動産仲介業者を介していれば業者が話を進めてくれます。
個人間で売買するときは売主が不利にならないように、自分でリードするようにしましょう。
以下の記事では、固定資産税とも密接に関わりがある固定資産税評価額について詳しく説明しています。こちらも合わせてご覧ください。
売却益が出た場合に発生する税金
譲渡所得税と住民税は、不動産を売って売却益が出た場合に発生します。これらは確定申告をすることで税額が確定します。
譲渡所得がプラスかマイナスかで税金の有無が決まる
たとえば、土地を3,000万円で購入してこれを5,000万円で売った場合、売却益は2,000万になります。
実際には、売却の際にかかった諸費用を差し引くためもう少し計算が複雑になりますが、この売却益を簡単にいうと譲渡所得となります。
これがプラスになっていれば、譲渡所得税と住民税を支払う義務が発生します。
逆に、マイナスになっていれば税金を納める必要はありません。
譲渡所得がプラスかマイナスかで税金の有無が決まりますので、譲渡所得の計算は正確に行わなければなりません。
譲渡所得税と住民税の計算方法
譲渡所得税と住民税の計算は以下の手順で行います。
- 1.譲渡所得を計算する
- 譲渡所得=売却金額-(取得費+売却にかかった費用)
- 2.特別控除の条件を満たしている場合は、控除額を差し引く
- 課税譲渡所得=譲渡所得-特別控除
- 3.所得税と住民税の税率をかける
- 譲渡所得税=課税譲渡所得×税率(所得税または住民税)
大まかにはこのような流れで計算しますが、譲渡所得は保有期間が異なれば税率も異なることや、取得費や売却費用に何が含まれるか、特別控除が適用されるかなど、細かい条件を加味して計算しなければなりません。
譲渡所得を算出する際に注意すべきこと
前述のとおり、税金を納める必要があるかどうかは譲渡所得によって決まりますが、計算する上でいくつか注意点があります。
不動産の保有期間により税率が異なる
土地や建物などの不動産は、5年を境目にして税率が異なります。
長期譲渡所得の税率
税率 | |
---|---|
所得税 | 15.315% |
住民税 | 5% |
合計 | 20.315% |
短期譲渡所得の税率
税率 | |
---|---|
所得税 | 30.63% |
住民税 | 9% |
合計 | 39.63% |
※所得税には、東日本大震災の復興を目的とした復興特別所得税も上乗せされています。
ここで一つ、ポイントがあります。5年を超えているかどうかは、売却した年の1月1日にさかのぼって判断します。
たとえば、2013年9月15日に購入した不動産を例に計算してみます。
この不動産を2018年9月16日に売却すると、売却した時点では購入日からは丸5年経っています。
しかし、売却した年の1月1日である2018年1月1日の時点での保有期間が5年以下のため短期譲渡所得とみなされます。
この物件が長期譲渡所得とみなされるのは、その翌年の2019年1月1日以降に売却した場合です。
短期の税率は長期のおよそ2倍になります。税金を抑えるなら、保有期間を慎重に計算して売却の時期を見極める必要があります。
急ぎでないのなら、5年を超えるまで待ってから売却を検討するといいでしょう。
取得費や売却費用に含まれるもの
譲渡所得を計算する際、取得費や売却の諸費用として認められないものを計上することはできませんが、認められているものについてはしっかりと計上することで税金を抑えることができます。
取得費には、土地や建物の購入代金のほかに、以下のようなものが計上できます。
- 購入時の印紙税
- 登録免許税
- 不動産取得税などの税金
- 土地の造成費用
- 測量費用
- 仲介手数料(不動産仲介業者を介して契約した場合)
売却費用には、次のようなものを諸費用として計上できます。
- 売主が負担した印紙税
- 土地を売るために建物を壊した際の解体費用
- 仲介手数料(不動産仲介業者を介して契約した場合)
建物は減価償却する
マンションや家などの建物は、年月が経つにつれて価値が減少していきます。
譲渡所得を計算する際は、この価値の減少分を取得費から差し引かなければなりません。
この減価償却相当分は以下の計算式で算出できます。
減価償却分=建物の取得費×0.9×償却率×経過年数
居住用の建物の場合、償却率と耐用年数は以下のようになります。
償却率 | 耐用年数 | |
---|---|---|
木造 | 0.031% | 33年 |
軽量鉄骨 | 0.025% | 40年 |
鉄筋コンクリート | 0.015% | 70年 |
上の表を参考に、実際に計算してみたいと思います。
たとえば、6,000万円の木造2階建ての戸建ての物件を売却する場合、その減価償却相当分は以下のようになります。
物件の条件は、購入金額6,000万円(内訳は建物2500万円、土地3500万円)、築年数は17年とします。
減価償却相当分は、2,500万円×0.9×0.031×17年=1,185.8万円
これを用いて、取得費を計算します。諸費用は250万円とします。
取得費は、3500万円+(2500万円-1185.8万円)+250万円=5,064.2万円
取得費が計算できれば、譲渡所得が計算できます。上記の物件が売却金額5,500万円、諸費用250万円で売れたとすると、以下のようになります。
譲渡所得=売却金額-(取得費+売却にかかった費用) なので、計算は以下のようになります。
5,500万円-(5,064.2万円+250万円)=185.8万円
条件を満たせば特別控除も受けられる
売却する物件が居住用のマイホームの場合、条件が合えば、さまざまな特例を受けられます。
ここでは、代表的な3,000万円の特別控除について説明します。
前項で例に挙げた物件で、税金を計算してみたいと思います。
特別控除が適用された場合
課税譲渡所得=譲渡所得―特別控除なので、計算は以下のようになります。
185.8万円-3,000万円=-2,814.2万円
課税譲渡所得はマイナスになり、税金を納める必要はなくなります。
特別控除が適用されない場合
3,000万円の特別控除が受けられない場合は、譲渡所得税=課税譲渡所得×税率(所得税または住民税)で計算をします。
保有期間は17年間あり、長期譲渡所得の税率が適用されますので、譲渡所得の税額はこれに所得税15.315%、住民税5%をかけたものになります。
譲渡所得税は、185.7万円×所得税率15.315%=28.4万円
住民税は、185.7万円×住民税率5%=9.3万円
譲渡所得税と住民税の合計は37.7万円となります。
このほかにも、10年超所有軽減税率の特例や特定居住用財産の買い換え特例など、さまざまな特例があります。
特例を受けるには適用条件がありますので、詳細は国税庁のホームページなどで調べたり、専門家に相談したりしてみましょう。
取得費が不明な場合は一律5%
自分で購入した不動産なら購入した金額はすぐに分かります。
しかし、先祖から代々受け継がれてきた土地や親が購入した土地を相続した場合は、当時の売買契約書のような書類がなく取得費を証明できるものが何もないこともあります。
その場合には、売却金額の5%を取得費として計算しなければなりません。
たとえば、親から相続した土地の取得費が不明だったとします。
これが5,000万円で売却できた場合、5,000万円×5%で250万円が取得費となります。
そして、売却費用を200万円とすると、譲渡所得は、5,000万円-(取得費250万円+売却費用200万円)で4,550万円です。
これに長期もしくは短期の譲渡所得の税率をかけるので、高額な税金を納めることになってしまいます。
相続した不動産がある場合は、当時の売買契約書など取得費を証明できるものをしっかりと保管しておくことが大切です。
親が購入した当時の売買契約書があれば、それに記載されている購入金額が取得費となります。
もし、証明できるものがない場合でも、過去の購入金額を合理的な方法で証明できれば、取得費として認められることもあります。
「取得費が一律5%では安すぎる」と思われる場合は、税務署や税理士などの専門家に相談してみるのも一つの方法です。
まとめ
売却時の税金は、税法の改正や軽減税率、特例が受けられるかなどの諸条件で大きく変わります。
自分で大まかな税額を求めることはできますが、正確な税額は税務署や税理士などの専門家へ相談しましょう。
また、不動産の売却は一括査定サイトなどを活用すれば複数の不動産会社を比較することができ、高値で売却できる可能性が高まります。
不動産を売却する機会は人生でそう何度もあるわけではありませんが、住み慣れたマイホームや親から相続した土地のような大切な不動産は、基礎的な知識をきちんと身につけて、お得に賢く手放しましょう。