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不動産業界を中心に久しくいわれているのが「生産緑地の2022年問題」です。
2022年を境に国内の大都市圏の農地が大量に売却され、マンションや戸建てなど住宅用地が一気に増加し、不動産の地価が暴落する恐れがあるといわれています。
本当にそんなことが起きるのでしょうか。
この記事では生産緑地の説明から、「生産緑地の2022年問題」の内容に切り込みます。
実際に不動産価格の暴落が起こるのか、またこの問題に対する政府の施策についても見ていきましょう。
また、生産緑地の所有者が2022年までに検討しておきたい内容についてもご紹介します。
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生産緑地について
「生産緑地」とは、生産緑地法の改正により1992年に制定された土地制度の一つです。
市街地でも農地を残す必要があるという要望に応えて導入されました。
土地所有者は最低30年間、農地や緑地として土地を維持しなければならず、そのかわりに税制が優遇されるという制度です。
三大都市圏中心の都市農地
平成29年版都市計画概況調査によれば、生産緑地は全国で12,972.5ヘクタールに及び、そのうち6割近くが関東地区に集中しています。
続いて近畿地区が約3割、中部地区が約1割で、他のエリアではほとんど見当たりません。
東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏、大阪・愛知の三大都市圏が全体の約8割を占めるため「都市農地」と呼ばれることもあります
生産緑地の主な要件
生産緑地にはいくつかの要件が定められています。
「農地・緑地が500㎡以上であること」「農林漁業経営に必要な場合のみ、建築物の新築や改築、増築などが可能であること」などです。
また先述のとおり、「30年間農地として維持すること」という要件もありますが、「生産緑地の指定日から30年経過した後は、自治体に買取りの申立てができる」などの措置もあります。
生産緑地内の税制優遇、市街化区域内農地との比較
まず、市街化区域とは何かを説明し、その後で生産緑地と市街化区域内農地の税制を比較します。
生産緑地の税制がいかに優遇されているかが確認できるでしょう。
市街化区域とは
都市計画法では、市街地を形成している区域や、およそ10年以内に市街地化を図るべき区域を「市街化区域」と定めています。
農地や緑地を更地にし、そこへ宅地や商業施設を建設することを目指すエリアです。
市街化区域には必ず用途地域が定められ、住居系・商業系・工業系の大きく3種類に分けられます。
それぞれの用途の中で、さらに細かい目的別に13の地域に分類されています。
そのうち、「田園住居地域」は、市街化区域内の土地の農地利用や農業に関連する施設の建設が認められている地域です。
この地域内の農地が一定の条件を満たすことで、生産緑地に指定されます。
固定資産税の優遇
一般の農地は宅地よりも固定資産税が低額ですが、市街化区域内農地は農地転用(従来農地だった土地を農業以外の用途で使用すること)を促進するため、税額が宅地並みに高くなります。
しかし、生産緑地は一般農地と同様に評価され、固定資産税額が大幅に抑えられているのです。
例えば10アールあたりの固定資産税額では、一般農地で1,000円のところ、市街化区域農地では数万円になり、さらに三大都市圏区域の農地(特定市街化区域農地)では、数十万円にもなります。
ところが、生産緑地の指定を受ければ10アールあたり数千円となり、一般農地の課税額とほぼ同等にまで抑えられます。
相続税の納税猶予
生産緑地を相続や遺贈によって取得した場合、相続税の支払いを猶予されます。
これも、市街化区域農地にはない利点です。ただし、後継者が農業を続けるか、農業従事者に農地を貸し出すことが条件です。
相続や遺贈を受けた人が農業を辞めた場合、相続した時点にまでさかのぼって相続税が課され、さらに猶予期間分の利子税も加算されます。
なお、農業に従事する相続人が亡くなったときのみ、猶予分の相続税が免除される仕組みです。
相続人が後継者に生前一括贈与した場合は、後継者は贈与税支払いの猶予が受けられます。
生産緑地の2022年問題とは
それでは、不動産業界を中心に叫ばれている「生産緑地の2022年問題」とは、どのようなリスクなのでしょうか?
2022年は多くの生産緑地のリミット
今ある生産緑地は、1992年の生産緑地法の改正を受けて指定されたものがほとんどです。
生産緑地には、最低30年間農地や緑地として土地を維持しなければならないという要件がありました。
そうすると、2022年には多くの農地所有者が30年間農業をやり通し、土地の買取りの申請ができるようになります。
これまでどおり農地を維持するのか、はたまた農地転用を検討するのか、多くの農地所有者が判断を迫られるのが、2022年なのです。
農地売却が増加する不動産市況リスク
首都圏・関西・中部地方の政令指定都市の生産緑地は1万ヘクタールを超えるとされています。
その約8割で、2022年に農地の買取り申請が可能になるのです。
農地所有者が高齢や病気などを理由に農業を断念し、多くの人が市区町村の農業委員会に土地の買取り申請をするケースが予想されます。
とはいえ、実際は自治体による買取りの実績は少ないのが現状です。
他に生産緑地のまま買取る人がいない場合、生産緑地の指定から外されます。
すると固定資産税が宅地並みに跳ね上がるため、持ち主は税負担の増大を避けるため、土地の売却を検討せざるを得ません。
そこに住宅メーカーやマンション開発業者などが登場し、土地の買取りを申し出るのは必然の流れです。
その結果、大量のマンションやアパート、住宅用地が市場に放出されることになり、不動産市況を一気に悪化させるかもしれません。
このような「生産緑地の2022年問題」が懸念されているのです。
生産緑地の2022年問題の対策
2022年問題のリスクに備えて、国は2017年に生産緑地法の改正を3つ行いました。
この改正点について、順に解説していきます。
改正その1~特定生産緑地の指定
「特定生産緑地」の制度を新たに創設しました。
生産緑地の指定から30年が経過する日までに特定生産緑地の指定を受けることで、税制優遇措置の期間(農地転用などの行為の制限も同時に)を10年延長できます。
また、10年経過した後に再び指定されれば、優遇措置の期間をさらに10年延長することができ、その後も10年ごとに更新できます。
この改正により、2022年に生産緑地の買取り申請が集中するのを緩和するという効果が期待できます。
改正その2~面積要件引き下げ
生産緑地の面積要件を従来の「500㎡以上」から、各市町村の条例により300㎡にまで引き下げられるようになりました。
「500㎡以上」では都市農地としては広すぎるという判断からの改正です。
これまでなら宅地化するしかなかった小さな農地も、生産緑地の指定を受ける可能性が高まります。
改正その3~建築規制の緩和
生産緑地地区での建築規制が緩和されました。
これまで、農産物の生産や集荷など農業用施設の建設のみに制限されていましたが、農産物の直売所や製造・加工施設、農家レストランなども建築できるようになりました。
農業以外の選択の幅が広がったことで、農地所有者が収益アップを目指せるようになります。
また、高齢化や後継者不足に悩む農家も、農地を手放さずに済むかもしれません。
2022年以降の生産緑地はどうなる?
生産緑地法の3つの改正により、所有者が農地を維持しやすくなることで、農地の一斉売却という問題はある程度回避されると考えられます。
それでは2022年以降、生産緑地はどのようになっていくのでしょうか?
都市農地の保全が進められる
2015年には都市農業振興基本法も制定され、市街化区域内農地の宅地などへの転用を促進するという従来の方針が転換されました。
これにより都市農地の保全という指針のもと、都市農業を重視するようになったのです。
また、国土交通省は、市民農園等整備事業の一環として、自治体による生産緑地の買取りを後押ししています。
自治体によっては、買取った生産緑地を福祉施設などに賃借地としてあっせんするケースもあります。
いずれにせよ、国や自治体が生産緑地を農地のまま保全する努力をしていることがわかります。
農地転用の必要性の低下
都市部でも高齢化が進み、さらに少子化の流れが改善されていないことから、今後は都市部でも人口減少が進むことが予想されます。
将来的に都市部の宅地や住宅需要も縮小するならば、農地転用の必要性は低下します。
国の方針で都市農地政策の規制緩和が進み、税の優遇が維持されるなら、生産緑地を農地のまま所有するメリットも大きいでしょう。
高齢化・後継者難により緩やかに非農地化
ただ、生産緑地として指定された当時の農地所有者は、確実に高齢化しています。
後継者もおらず、農地の収益力が弱いなどの問題もあれば、やはり農地転用という選択肢も上がってきます。
後継者がいなければ買取り申請を検討し、徐々に非農地化が進むのは自然の流れかもしれません。
2022年までに生産緑地所有者が検討する選択肢
では生産緑地の所有者は、2022年までに何を検討すればよいのでしょうか?大きく3つの選択肢があります。
特定生産緑地の指定を受ける
10年ごとに更新できる特定生産緑地の指定を受け、引き続き税の優遇を受けます。
今後も農業に従事する意思がある、または後継者がいる場合は、特定生産緑地の指定を受けるべきです。
生産緑地の指定解除後も農業を継続する
生産緑地の指定が外れた後も、市街化区域農地として従来どおり農業を続けます。
10年後の特定生産緑地の更新時まで農業を続けられるか不明な場合の選択肢です。
ただし、固定資産税は段階的に引き上げられるため、5年後には宅地並みに上昇します。
税負担に耐えられず、途中で買取り申請をするリスクも高いです。
生産緑地を解除し、売却・土地活用を行う
生産緑地の指定を解除し、買取り申請をして農地を売却、または転用して土地活用を行います。
農業を続ける意思がなく、後継者もいない場合はそうせざるを得ないでしょう。
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生産緑地として続けていけるならそれに越したことはありませんが、後継者問題などで続けられないという現実もあります。
その場合、土地の売却や土地活用による農業以外での収益化など、他の選択肢を模索しないといけません。
また、どの選択肢を取るにせよ早めに対策をしなければ、面倒なことを自分の子供達に押し付ける結果となります。
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まとめ
生産緑地法の改正によって「生産緑地の2022年問題」という大きな危機は、とりあえずは回避できそうです。
ただし、2022年に農地の買取り申請が可能となる生産緑地の所有者は、それ以降農地をどうするのか検討しなくてはなりません。
高齢の所有者が大病を患ったり、認知症になったりすれば、意思表示が難しくなる可能性もあります。
生産緑地の所有者が高齢の場合は、農業の後継者を早めに決めておくのが得策です。
もし後継者がいないのであれば、売却や土地活用などを検討する必要もあるでしょう。
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